「人みな、生きて死ぬ」(南医師会から市民の皆様へ)

「日本プライマリ・ケア学会第16回近畿地方会・ウェブ抄録集」
日本医師会認定産業医指定研修会    
      「21世紀の都市医学」 
  −都市環境における産業医学の役割−
      大阪市立大学大学院医学研究科都市医学大講座産業医学教授
        圓藤吟史
   都市は、産業とともに発展してきたが、環境汚染、生活習慣病の増加など、多くの課題を抱えている。
   
  化学物質のリスクマネジメント

 和歌山の毒物混入事件、能勢の廃棄物焼却場のダイオキシン騒動、環境ホルモンやシックハウス症候群に関する話題は、化学物質の毒性に馴染みの薄かった人々に不安を与えることとなった。様々な化学物質を大量に扱っている産業現場から学び発展してきた産業中毒学は、都市環境における化学物質による健康リスクに対するマネジメントシステムづくりに貢献しうる。

 
保健システム
 わが国の保健システムは、WHO加盟191カ国中第1位と評価されている(World Health Report 2000)。それには、国民皆保険、医学医療の進歩、差別の少なさ、貧富の差の少なさ、健康に関するインフラストラクチャーの整備などが貢献している。国民皆保険は被雇用者の健康を確保するために創られたものであり、また、経済力と雇用の安定は健康水準を高める重要な要因である。しかし、右肩上がりでなくなった経済のもと、失業の増加、雇用の不安定化、ホームレスの増加をもたらし、その結果、自殺の増加、出生率の低下といった問題に直面し、わが国の保健システムの構造改革が求められる。
 
臨床予防医学のすすめ
 わが国の医療対策は、医療施設の整備、病床整備に主眼をおいて進められ、25万人の医師の殆どが治療医学に従事してきた。しかしWHOや各専門学会が報告しているように、高血圧、肥満、糖尿病などの診断の目的はその合併症の予防にある。健康診断の結果を解析し、より具体的な危険因子とその程度を明らかにする一次予防を目的とした臨床予防医学としての証拠を見いだしていく臨床疫学の研究が求められる。5万人を超える日本医師会認定産業医は、50人以上の事業場で働く2000万労働者に対し、予防医学としての良質の産業保健サービスを提供しているので、産業医と労働者の主治医である臨床医とが連携し、原因(リスクファクター)に介入する医療行為としてライフスタイルの変容を促す積極的な保健指導を行うことが求められている。
 
今後の課題
 50人未満の事業場で働く3000万労働者に対して同等な産業保健サービスを提供することと、生涯を通じた健康支援のシステムづくりまで繋げて行くことである。