「人みな、生きて死ぬ」(南医師会から市民の皆様へ)

「日本プライマリ・ケア学会第16回近畿地方会・ウェブ抄録集」

講     演    
      「在宅ターミナル・ケアに関連する法医学上の問題」
 
大阪大学大学院医学系研究科法医学講座教授
的場梁次
   
   臨床におけるターミナル・ケアは、医師あるいは医療従事者が死に向かう患者の身体や心を如何に癒すかという点が重要であるのに対し、法医学の場合は既に亡くなった患者(死者)と対応するものであり、この点は大いに異なる点である。
   
  死の確徴

 遺族より、在宅診療中の患者の様子が急変した、あるいは亡くなったとの連絡で往診することになるが、まず何よりも患者が生きているか死亡しているかを判断せねばならない。まだ息があれば、当然のことながら救急処置をすることになる。すでに死後硬直や死斑などの死体現象が出現しておれば、死は確実なものである。これら死体現象は「死の確徴」といわれる所以である。また、既に死亡後かなり時間が経過していることもあり、その際には、死後経過時間の推定を行わなければならない。これは死亡診断書(死体検案書)に記入が必要な事項である。また、最終診察から24時間以上経過していれば、異状死体として届け出を行うこととなる。

 
死後の診察(死体検案)
 さて、死の確認や死後経過時間を推定した後、診察(検案)を行うことになるが、そのときに問題となることは、死因の推定である。以前より診療してきた病気が原因で死亡した場合であれば、死亡診断書を発行することになるが、必ずしもそうとは限らないこともある。即ち、末期癌の患者であれば、自殺や家族による殺人の疑いもある。また、最近独居高齢者や高齢夫婦のみの所帯も増えていることから、犯罪に巻き込まれているおそれもある。これらは、家族からの話をよく聞き、損傷の注意深い観察が必要となる。この様な外因死の疑いのある場合や、死因が明らかでない場合、異状死体の届け出を行うことが必要である。
 
検視、死体検案、解剖
 異状死体の届け出を行った後は、警察による検視、監察医や警察医による検案、あるいは法医学による解剖となるが、在宅診療を行っていた医師としての意見も最終死因決定において、重要なものである。